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京都地方裁判所 昭和34年(ワ)1139号 判決 1963年3月30日

原告 中田義一

被告 国

訴訟代理人 水野裕一 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告が本件土地の所有者であること、本件土地は別紙図面中赤線で囲まれている部分であつて、同図面から明らかなように南側は直接海に面し西、北、東の三方はいずれも被告所有の土地に囲まれ、舞鶴市への往来は同図面に赤点線で表示された被告所有地内の財務局所管の通路が唯一の通路になつていること、本件土地と隣接する被告所有の土地のうち、右通路を除いた部分は自衛隊が使用しているが、右自衛隊は右通路の舞鶴市街よりの入口である自衛隊警衛詰所前の別紙図面(イ)点に遮断機を設けて右通路を閉鎖し、自衛隊発行の通行証を所持せぬ者の通行を阻止していることは当事者間に争いがない。

二、ところで原告は右通路は公道であつて公衆の自由に通行しうるところであるから、右のように遮断機を設置して原告の通行権を妨害するのは不当であると主張するが、右通路が公道であることは原告の全立証その他本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。よつて、右通路が公道であることを前提とする原告の主張は理由がない。

三、本件土地が袋地であること、右通路が公道に達する最短距離にあることは当事者間に争いがないところであるから、原告は右通路につき、囲繞地通行権を有するものといわねばならない。そこで、本件の争点である被告の右遮断機の設置が原告の囲繞地通行権を妨害するか否かにつき判断を進めることにする。成立に争いがない乙第一、第二号証、第五号証の一乃至三、原本の存在及び成立に争いのない乙第六号証、証人牧野善保、同五十嵐盛文の各証言、検証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、右通路は加津良の公道より分岐する巾員約四米の土砂道であること、本件土地の三方を囲繞する被告所有の土地は、いわゆる白浜弾火薬庫地域であつて、右地域はもと駐留軍が使用していたが、昭和三〇年陸上及び海上各自衛隊がこれを引継ぎ使用し、右通路は海上自衛隊において事実上管理せられていること、右地帯には別紙図面表示のとおり陸上自衛隊の第一弾火薬庫、海上自衛隊の第二、第三各弾火薬庫が各存在し、その最大貯蔵量は爆薬換算量として第二弾火薬庫は一九トン、第三弾火薬庫は二〇トンであり、現在の貯蔵量は爆薬換算量として第二弾火薬庫が一八トン九〇〇、第三弾火薬庫が一九トン八〇〇であること、海上自衛隊においては右火薬が爆発した場合には広範囲にわたる附近住民及び物件に甚大な被害を与える虞があり、また弾火薬の盗難が招く世上の不安を防止するため、敷地内には詰所又は見張所を設け、また隊員による立哨又は動哨の方法で昼夜の別なく警戒していること、本件遮断機も右の目的のために設置されたのであつて、右通路を通行する者には、海上自衛隊舞鶴総監部の発行する通行証の呈示を求め、これを所持しない者の通行は原則として認めない方針にあることが認められる。

四、ところで原告は右各弾火薬庫の火薬の貯蔵は、各火薬庫より、最も近い保安物件までの距離が法定の保安距離にみたないためであつて違法であるから、保安上とはいえ本件遮断機の設置は許されないものであると主張するので、判断するに現行の火薬類取締法施行規則第二三条第一項によれば、「火薬庫は、・・・その貯蔵量に応じ火薬庫の外壁から保安物件に対し左の表の保安距離をとらなければならない。」旨規定し右「左の表」は火薬の貯蔵量が減少するに従つて保安距離も短縮されているのである。してみれば原告主張のように第一号弾火薬庫は全く火薬の貯蔵が許されず、又第二号、第三号弾火薬庫においても現在量の火薬の貯蔵が違法であるとしても、少くも第二号、第三号弾火薬庫に関しては、舞鶴市加津良地区の家屋が同規則にいう第一種保安物件(市街地の家屋)に該当し、右家屋までの距離が原告主張のとおりであり、又本件土地上の家屋までの距離も原告主張のとおりであると仮定しても、現在量より少いある一定量の火薬であれば、これを適法に貯蔵しうる筈である。それ故、右各弾火薬庫における火薬の貯蔵が全く許されないものであるとする原告の主張は失当であるといわなければならない。

五、しかして、成立に争いのない乙第三、第四号証、右牧野証人の証言、弁論の全趣旨によれば、前々段認定の如く右通路は通行証の呈示がなければ原則として通行しえないのであるけれども、海上自衛隊においては、本件土地の所有者又は代理人等顔見知りの者は通行証なしに通行を許しており、又本件土地に立入る必要のある者には申出があれば不審のかどのないかぎり必ず申請した期間(相当長期のばあいがある)有効の通行証を発行し、緊急のばあいには通行証なくしても通行を許す方針としていることが認められる。

思うに、囲繞地通行権なるものは全く無制限のものではなく、囲繞地所有者の権利と抵触することの最も少い方法によらなければならない制約があることは当然の法理であるところ、本件においては、被告にはその貯蔵にかかる火薬(現在量の貯蔵は違法であつても、一定量については適法に貯蔵しうること前段説示のとおりである。)の爆発又は盗難の危険を未然に防止し、公共の安全を図る責務があるのであつて、右の如き程度であれば、原告の通行権を制限するのも又やむをえないものといわねばならない。のみならず、本件土地がもと被告所有の国有地であつたところ、訴外京都船舶工業株式会社に売払われ、その後二、三の者を経て原告が取得したことは当事者間に争いがなく、右京都船舶に売払われた当時既に本件土地を囲繞する被告所有地は火薬庫に使用され、本件遮断機も設けられていたことは右牧野証人の証言及び弁論の全趣旨により明らかであつて、右京都船舶は右のように制限された通行権を有するに止まることを知つて本件土地を買入れた(売買価格も右事情を当然考慮に入れて定められたものと推測される。)ものというべく、その後これを転得した原告も右事情を知つて買入れたものと考えられるから、原告の囲繞地通行権に右の程度の制限が加えられることは原告においてこれを忍従して然るべきものである。

それ故、本件遮断機の設置は適法であつて、その違法を前提とする原告の本訴請求は失当であつて、棄却さるべきものである。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎 乾達彦 片山欽司)

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